月一コラム第二十弾!令和3年7月号
梅雨が明け、本格的な猛暑の季節がやってきました。学生の皆さんにとっては楽しみが多い夏休み期間ですが、受験生にとっては「天下分け目の夏休み」です。私は今でもセミの鳴き声を聞くと、なぜか受験勉強をしていた時のことが一番思い出されます。
さて、私が大学入学試験の受験勉強をしていた時に、ぼんやりと持っていた疑問は「なぜ医学部は理系なのだろう」という点でした。さらに具体的にいうと「なぜ数学が得意な人ほど医学部に入りやすく、数学が苦手な人は医学部に入りにくいのか?」という疑問でした。
親や高校の先生、予備校講師にこの点を度々尋ねたことがあるのですが、返ってくる答えは「数学が得意でないと医学部の勉強についていけないから」「医師の仕事には数学が必要だから」というものでした。そして医学生時代を過ごし、実際に、医師の仕事に従事して私が出した結論は「あの回答は真実と違う」ということでした。医学部の授業でも、医師の業務の中でも、数学が出来なければ困るできごとは、「ほぼ皆無」でした。だから今では「なぜ医学部受験には理系科目が必須なのか?理系を選択した高校生しか医学部受験が出来ないのはなぜか?」という疑問は消えるどころか、益々大きくなりつつあります。
大学受験を目指す日本の高校生は、早ければ高校1年生、遅くても高校2年生の後半までには「文系を目指すか?理系を目指すか?」という進路選択を行うのが一般的です。そしてその進路選択により勉強する科目が決まります。日本では高校生の「約7割が文系、約3割が理系を選択する」と言われています。つまり医学部受験の可能性がある高校生は全体の約3割のみということになります。医師不足がいまだに深刻化しており、また医師と他職種との連携がますます必要になりつつある超高齢化社会を考えると、文系と理系の垣根を取り払って、理系からでも文系からでも「医学部受験」ができるようにすべきではないでしょうか?
実は今年(2021年)の国会質疑の中で、この問題意識を持って、「医学部に入るために受験生はなぜ理系を選択しなければならないのか?」との質問を行いました。文部科学省の答えは「受験科目については、各大学が独自に定めていることであり、文部科学省として各大学の学力検査について具体的に科目を指示していることはございません」というものでした。厚生労働省にも同じ問いを行ったところ、各医学部には入学試験科目を指示していないとした上で「生物や化学の知識を持っていただいていた方が良いと思うが、医師という仕事は複雑・精緻な仕事なので理系の知識を持っていた人が良いのかなというイメージがパッと頭に浮かぶ」というある意味「非常に面白い回答」が出てきました。面白い回答ではありましたが、この回答では「医学部の入学試験でなぜ数学が重視されるのか」という私の長年の疑問が解消されることはありませんでした。
結局「慣習」のように感じます。「医学部=理系」というイメージが強すぎて、今さらその「慣習」を変えられないというのが現実なのだと思います。
一方、真偽は定かではないのですが、かなり年配の医師の方から「昔は文系科目のみで入学試験を受けられる医学部が存在した」という話を聞いたことがあります。
少子化が進むことで受験生の総数が減る社会において、将来の医師をどのように選抜していくのか?超高齢化社会に対応する「地域包括ケアシステム」を構築するためにはどのような人材を医師として育てていくのか?理系一辺倒で良いのか?今年の夏休みに必死に頑張っている受験生には直接関係しない話題ですが、今後、我々は根本的に考え直しても良いと感じています。
梅村 聡